眼鏡の薬剤師は秘密だらけ。

へなちょこ眼鏡くん(画像)

動きやまない都会のなかで、時の流れに取り残されたようなひらべったい一隅に、三島薬局はある。いや、看板はとっくの昔に判読不能になっていて、近隣ではもっぱら「眼鏡くんの薬屋」と呼ばれている。店主兼店員は“眼鏡くん”ことサイゴ・ミシマ。歴史ある薬局の4代目らしくと、ひいじいちゃんが薬草にちなんで名づけたそうだが、薬を売るのに「最期」なんて名前はいくらなんでも、と常々こぼしているものだから、誰も彼をサイゴとは呼ばない(実は本来の読みは「サイコ」で、女名前である理由こそが彼の秘密のひとつなのだが)。

眼鏡くんの薬屋はどうも商売っ気が薄い。正規の医薬品はとてつもなく高価だから、下町のたいていの薬局では怪しげな医薬部外品を投げ売りしている。けれど眼鏡くんは本当に効く薬しか売ろうとしない。医薬品は自ら処方箋を書いて必要分だけバラ売りし、裏庭で栽培している薬草を調合する。中央政庁の公認薬剤師だからこそ法律上も許されている行為なのだが、免状持ちがなぜスラムも同然の下町で儲からない薬屋をやっているのかなんて、誰も訊きはしない。いや、それを訊けばきっと眼鏡くんはこの街を去ってしまうだろう。店の評判が立つのも彼の望むところではないだろう。眼鏡くんの眠そうな笑顔の裏にある、度の過ぎた引っ込み思案の理由に触れてはならない―それがご近所の不文律だ。

いっぽう恋人のあんずはといえば、彼の覇気のなさが少々物足りない。デートの最中も、眼鏡くんは公認薬剤師の義務として“桃十字”の腕章と救急箱を携帯し、政庁の要請に応じて民間救急隊員として活動する。そんなとき、どうやら何か見えないところで人間離れした芸当をやらかしている気配に、あんずは何となく気付いている。そしてそれが、彼のもとにどこからか降って湧いたような子どもが居候を始めてからだということにも。彼が自ら話してくれるまでその内実を詮索しようとは思わないが、胸を張って実力を発揮すればいいのにと、常々歯がゆく感じている。いやのろけではなくて本気で。

イラストは、久しぶりにまとまった収入があったおかげでツケを全部払ってもお釣りがきたので、どうしても今日のあんずとのデートの支払いを自分で持ちたくて、でもせいぜいファストフード店に入るぐらいしか余裕がない眼鏡くん。今日もあんずが綺麗なのがただただうれしいだけで、ゴージャスな美女をエスコートするにふさわしい店に入らなきゃだなんて、これっぽちも念頭にないのが彼のいいところです。

制作日
2002-11-03
画材
Gペン、Painter7.0

Other Version

  1. pbbs/20021031anzu.jpgあんず姐さんと眼鏡くん / はわ! やぱしあんず姐さんのほうが背が高いみたい(2002-10-31)

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名前
三島柴胡 / Saigo Mishima
シリーズ
Flower Garden
参考
恋人の&'s(あんず)姐さん
拾っちゃったシオンたん

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