〔星の降りける〕

(制作日:1986-11-xx)

星の降りける
暗きそらに星の降りける
星のひかり地に降りける
そらより降りける星のひかり
しづかにあかりて水面にうつる

〔雪どけ水が〕

(制作日:1986-xx-xx)

雪どけ水が騒ぎはじめて
大峰の春の朝はあたたかです。
どこかでうぐいすも鳴くし
雪もちいさく雪崩れます。
つめたい冬を越えたのだから
あたりまえの春が来ました。
空に春 風に春 土に春。
  (以下数行空白)
  右にうぐいす。
  左にうぐいす。
  鳴き交わして春が来た大峰の山。 (以下原稿ナシ)

〔青々の空を切り取った〕

(制作日:1987-xx-xx)

青々の空を切り取った山並に鳥は立ち。
こんな地表の最上層からの
いちめんの絨毯は色色のだんだらで
透明の陽炎も地平に燃える。
  青の天空に鳥は立ち。
   残るは梢の揺らぐのみ。
    懐深き大樹より
     鳥は孤高の天を指し。
 (きらめいて通り過ぎる風と羽虫と
  憶えるにも虚ろな雲のうつろい)
すじ雲とわた雲と空に流れるのは
行く先も定まらぬ悲しいさだめ。
南へ行こうとして北へ流されるのは
ひどく疲れた者のあきらめのせい。

〔鎖と枷で〕

(制作日:1987-06-xx)

鎖と枷とでとどめておくなら
いっそ原野に放ってしまえ。
駆けることなく 吼えることもなく
裡にとどめて狎れあうのなら
いっそ原野に朽ちさせてしまえ。

〔けぶる東雲の遙かにて〕

(制作日:1987-12-xx)

けぶる 東雲 ( しののめ ) の遙かにて
淡き月輪のほの白み
稜線のなだらにひかりの差して
暁天はついに明けなんとせり。
  (かのひかりいづくよりきたるか
   かがやけるかたちとことばの)
新しき世の目醒むるこの時に
我は喜びにうち震ひ
畏ろしさにおののき慄ふ。
眩む来迎のもとに
はや我も真に新しき。
  (このちからいづくよりきたるか
   うちひそみしけもののごとく)
我はこの峯のうえに危うく立ちすくみ
明けゆく眼路の限りを見渡す。
ゆるやかに息づく芒野原に
たわわの銀穂は不毛に実り
碧水の底に玉と石の淆じるのも
すべては在るがごとくに在るなり。

〔ことばがなかった。〕

(制作日:1988-10-xx)

ことばがなかった。
その詩人にはことばがなかった。
こころがあった。
詩人のこころは深く暗く沈んでいた。
 (模様なすステンレスの痛ましさ)
昔はあんなに歌ってあるいた、
湧くようにことばは溢れ生きることのたのしさに溢れ
水のせせらぐ林のなかを歌ってあるいた、
しんじつ飛翔をもたらしたあの翼が!
 (羽のように軽いのではない
  翼のように軽いことば)
       翼は。
       疲れて既にひらめかず。
       たゆむばかりの。
       ぼろきれ。そのもの。