運命を容れた、それが彼女の罪と罰。
誰もが森はおそろしいところだと聞かされて育つ村で、ひとり秋津だけは森を恐れない。両親が「防人」だったから。いつか自分も防人の妻となって、森の脅威から村を護るのが運命だと思っていた。
もうだれも知らない遠い昔、賢人たちが愚かな争いを起こし、いきものの体を自在に変化させる技で殺し合った挙句に滅んだという。そして今、森には変異した奇妙な動植物があふれている。最も危険なのは「憑かれビト」。村の誰かが突然異形の生物に変化し人の心を失ってしまう、そのとき駆けつけるのが防人だ。可能ならば薬で異形化の進行を止める。言葉が通じるなら、森の奥の禁足地で静かに暮らすよう説得する。身も心も変わり果てて人を襲うなら――殺して焼き捨てる。すべてがたったふたりの、防人とその妻のつとめなのだ。
防人のわざは秘中の秘とされているが、秋津は母の後継者としてその仕事ぶりを垣間見てきた。それは、村人らが想像しているような呪術的なものではまるでない。防人の家には、中央官庁の研究室か海上学研都市にしかないような、生化学の設備がひととおり揃っている。父は森に入って憑かれビトたちの体組織や血液を集め、母はそれを材料に異形化ウイルスの変異を調べ、新たな特効薬を作る。しかし抗体を生産している生体は? 秋津は気付かないふりをし続けた。美しかった母が日毎に衰え、ついには全身をすっかり覆い隠されて森の禁足地へ運ばれていっても。そして間もなく父が森から帰らなくなっても。
両親を失った秋津を、幼馴染の錆太(サビタ)は「俺らが後を継げば父ちゃん母ちゃんも安心するさ」と励ました。つまりそれは不器用なプロポーズでもあったのだが、彼を生命と精神の危険にさらすことも、自分の姿が変わり果てていくのを見られることも、秋津には耐えがたかった。畏るべき防人の一族である秋津を、ただの平凡な娘として扱ってくれた錆太だったから。
間もなく次の防人選びが行われる。中央官庁の研究員が来て適性試験をしたが、錆太も、防人になりたがっていた村長の娘・玻瑠(ハル)も来ず、順当に秋津と身寄りのない少年・日向(ヒナタ)が選ばれた。もしも秋津が防人の妻になることを拒んでいたら、秋津と錆太、そして玻瑠と日向、幸せな二組の夫婦ができたただろう。秋津は運命を受け入れたことを後まで悔やんだのだが、彼女は賢明にも4人の傷心とひきかえに世界的危機を回避した、と後代の人は語ることになるだろう。今は防人の妻として、それ自体が罪であり罰でもある苦渋の日々を送っていても。
こののち、意外と強くてやっぱり優しい日向くんに今更だけど惚れてみたり、防人になる前に子ども作っとかなきゃならんのに日向くん自体がコドモだったり :p)、日向と村長の娘・玻瑠が人類存亡の鍵を握っていたりいなかったり、よりにもよって錆太が憑かれビトになってしまったりと、波乱万丈のあれこれがあるのだが、それはまた別の機会に。
- 制作日
- 2002-03-31
- 画材
- Gペン、Photoshop6.0
character data
- 名前
- 秋津 / akizu
- シリーズ
- Bloody Hounds-next 「防人の森」
- 参考
- “相棒”ヒナタ
- “恋敵”ハルお嬢さん
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