おじさま、もう一遍して、と金魚は言った。
2004年残暑見舞いのような、室生犀星「蜜のあわれ」に登場する“赤い三年子の金魚”のような。
老作家と“赤い三年子の金魚”の化身である活発でコケティッシュな少女の会話劇。ふたりのままごとのようでありながら時に濃密な愛欲がふと匂ったり、酷薄な小悪魔に振り回される老人にしか見えなかったりする恋模様が、かわいらしくもなまぐさくていい。たびたび闖入する作家の愛した女の幽霊は、犀星の理想の女性像なのだろうか。金魚も幽霊もまったくの生身の女であるかのように描かれてシュール。何より大正浪漫ただよう金魚の言葉づかいが実にいい雰囲気。
「あたいのは冷たいけれど、のめっとしていいでしょう、何の匂いがするか知っていらっしゃる。空と水の匂いよ、おじさま、もう一遍して。」
少女にキスをねだられて、こんなふうに言われちゃったらどうですか! しかも金魚に! よくわからないけど、イイ。素敵にやらしいです。
残暑見舞いがわりの絵のほうは、あの活発な金魚のことだから、おじさまに海水浴をねだっておいて、やっぱりお肌に潮がしみるから海には入らないわ、水着のかわりに銀座でお洋服を買ってくださらなきゃいやよ、あらあすこにソフトクリームを売っていてよ、あたいまだ食べてみたことがないの、とか言ったりしそうだなぁ、と思いながら描いてみた。
- 制作日
- 2004-08-29
- 画材
- Gペン、Painter7.0、Photoshop6.0
book data
- 作者 / アーティスト
- 室生犀星
- 題名 / 収録物
- 「蜜のあわれ・われはうたえどもやぶれかぶれ」 講談社 (amazon.co.jpで ISBN:4061962248を見る)
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