標準語、産みの苦しみと…。

南郷家記念撮影(画像)

明治七年、文部省官吏南郷清之輔は「全国統一話し言葉」の制定を命じられた。織田信長や太閤秀吉の天下統一にも比すべき大事業! しかし彼の家では家族、奉公人など十の方言が入り乱れて大混乱……

「標準語」っていったいなんだろう。「方言」ってなんだろう。ときには大笑いし、時には考え込みながら、戯曲で井上流日本語講座をわかりやすく受講する趣。ト書きにふりがながついていて、作中に発音講座もあったりして、各地方のお国言葉にもすんなりなじめる。テレビドラマでは、なんと標準語の字幕が入ったそうな。見たかったなぁ。

そもそも私の興味のあるテーマだし、サービス精神豊かな井上氏の作品なので面白いのは当たり前なのだが。ま、難しいことは考えず、まずはキャラクター達の濃さを楽しんでみては。ごっつい河内弁を話す元遊女、武家の奥様ふうの有能な女中、詐欺くさい自称国語学者の元お公家さんなどバラエティ豊かな14人が、それぞれのお国言葉丸出しでしゃべるのだから、それだけでもうおかしくってしょうがない。同じことを言おうとしても、「オメデテアーことだなも(名古屋)」「オメデトーゴアンシタ(江戸下町)」「メデタクテエガッタ(南部遠野)」「メデタメデタのワガマヅサーよ、だズー(米沢)」てな具合。ちなみに手前の書生・修二郎(名古屋弁)は狂言まわしも務めるので、井上氏の似顔にしてみた。うーん、若い。

物悲しく救いのない幕引きは、日本語が現在置かれている情況への井上氏の見方を反映したものなのだろうか。処女小説「ブンとフン」の祝祭的フィナーレ、「ドン松五郎の生活」の未来への希望の萌芽とは対照的だ。

制作日
1988
画材
Gペン、Photoshop6.0
掲載物
個人誌

book data

作者 / アーティスト
井上ひさし
題名 / 収録物
「國語元年」 新潮文庫 (amazon.co.jpで ISBN:4101168237を見る

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