すすきのはら

(制作日:1986-07-xx 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

( しげ ) く降りつづく白い陽光の下
冷たく乾いた風になぶられ
こんなにも静かに立っていられる
ここちよい寂しさ
こんなにも静かに

見えるか
茫漠として波打つ枯野に
目を凝らしてみれば
判るか
音たててささめくすすきを
彼方まで見渡してみれば
ここに調和を保てるものは
乾いた日輪 風 すすき
ほかには冷たく蒼い空

感じるか 判るか
こんなにもここちよい寂しさ
自分が調和を乱さない不思議
茫々たるすすきの波にもまれて
ああ 俺も既に枯野
天然の景観を構成する一員だ

今 俺の立ちつくす姿は
枯木に似ていると感じる

ゆきのはら

(制作日:1986-10-30 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

挿画:枯れ木の枝を霞ませて降りしきる雪

音は凍って無と還り
渡る風のみ流れゆく
ひとひらひらのゆきのひら
ゆきののはらにゆきのひら

広がる空のただ白く
光る峰さえまた白く
ゆきののはらにしらじらの
ゆきのひとひらほのじらむ

ましろに冷たきゆきのはら
まふゆの寒げにおおいたり
ましろにかろきゆきのひら
まふゆの空より降り来たり

ゆきののはらにゆきのひら
まふゆの空より降り来たり

風渡る

(制作日:1986-10-31 掲出誌:高等学校文芸クラブ誌・月刊「雑記帳」)

空の限りに鳴る風は
ひゃうびゃうびゃうと渡りゆく
黒く厳つき落葉松の
冷たき風と空に哭け
すきとおる空に鳴り渡れ
  あかるき冬のひかりかなしく
  降りそそげすすきのはらに

深夜

(制作日:1986-11-29 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

  風がない。
  空がある。
  雪は真直ぐ白墨になって。
降降降降降降降。
  冬はこんこん深い眠り。
  昏昏昏昏。

北海 1

(制作日:1986-11-29 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

挿画:北の海に幻の鳥が一羽飛んでゆく

途方もない海だ。
巨大な鉛の溶体が。
白い牙を剥き。
白い牙を剥き。
   濤─────・
   濤─────・
止むことのない永久運動。
寄せて引いて。
巻いて砕けて。
牙を牙を牙を牙を剥き。

空はもうこけまろぶ寒波雲。
風はもう疾ってゆく鴉めら。
牙は鉛の空に噛みついて。
あとは砕ける己の鉛のうえ。
   濤─────・
   濤─────・

北海 2

(制作日:1986-11-29 掲出誌:高等学校文芸クラブ誌・月刊「雑記帳」)

空と岩とのけわしい天末線に
どうと吹きつける氷塊。
知床はいかにも荒削りで
宙に舞い舞う頼りない粉雪の
吹き溜まりだけがあたたかい。
オホーツクからの風は
かつて氷原を渡った無頼漢。
こんなさらりとした粉雪などは
岩にへばりついて凍るしかない。
向こうに広がる巨大な白さは
さいはてからの氷の結晶、
じき眼下の岩壁の縁まで来る。
いま黒々とおそろしいような海面には
限りも知らぬ葬列の
粉雪がひたひたと呑まれゆく。
呑まれゆく。

冬の夜なれば

(制作日:1987-01-17 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

枯木もふるふ冬の夜なれば
てんてん転べる糸玉は
真白き仔猫とまろびをり
炬燵のうへに蜜柑皮
ストーヴのうえに鉄茶瓶

樹液も凍る冬の夜なれば
窓に流るるもののあり
白き牡丹のひらのごと
空より来たりて降りつめり
しげくかそけく降りつめり

風もひそまる冬の夜なれば
枯木に氷の華も咲く
遙けく遠きみづうみに
てんてん黒きは鴨の群
はるばる来たりて寄りあへり

待たるる春の遠きこと
せめては童にたちかえり
雪合戦でもいたしませう
夜には夜のしづけさで
仔猫の背でも撫でませう

冬の交響詩

(制作日:1987-01-xx 掲出誌:高等学校文芸クラブ誌・月刊「雑記帳」)

冬の Adagio
降りそそぐ陽は石英のさらさら、
溶け残る雪は黒土とだんだら。
小春色の空にぽっかりの雲、
軒から下がるつららは涙落として。

Assai Leggero 水は流れ
Assai Grazioso 風も流れ
冬の交響詩 軽く優しく。

氷と雪に飽きた頃
冬が微笑むこともある。
冬の Grave 冷たさを忘れて
冬の Largo 厳しさを忘れて
やがて来る春の序曲
冬の交響詩 ゆきのはなももえる。

蒼輪幻想

(制作日:1987-09-xx 掲出誌:高等学校文芸部誌・年刊「群星」)

厳冬の雪原に動くものの絶へ
さむざむふるふは氷樹林のみ

   蒼き歴史のいちれつは
   みゆきに刻む足のあと
   遙けき峰のしらゆきは
   月のひかりに明るめり

厳冬の雪原のすでに闇ふかみ
凍てつく車輪の枝間に望めり

   このあをびかる月輪の
   まふゆの夜空に耀ひて
   見上ぐるものの息白く
   ことばはかなく喪はれ
   獣のおもひは夜を凌ぎ
   月輪遙かにうつろふを
   射ぬとばかりに轟けり

竹林幻視─孟宗竹林

(制作日:1988-02-18 掲出誌:高等学校文芸部誌・月刊「文芸開化」)

罪科 ( つみとが ) のしるし ( かひな ) に刻みつつ
病めるこころに雪の降り積む

   孟宗の青き節のうへ
   白き牡丹の降り積みて
   夜毎の闇に数もしら
   白き花弁の降り積みて

罪科のしるし腕に刻みつつ
病めるこころの沈みて居れり

   孟宗の青き節々の
   冷たき罪を背負ひつつ
   撓める竹の節々の
   重たき科を背負ひつつ
   夜毎の眠れぬ ( ねや ) にしも
   罪科のしるし降り積みて
   我も重たき 罰責 ( こらしめ )
   堪へず撓める竹なりき

   いつかは知らねど或る朝に
   堪へず砕けむ竹なりき