あなたはブドリになりたかったのか。

ブドリはもういない(画像)

冷夏による飢饉のさなかに親に捨てられ、妹ネリまでさらわれたグスコーブドリは、苦労の果てにクーボー博士に見出されて火山局で働くようになる。大博士とペンネン技師の薫陶を受けつつ、肥料や雨を降らせる事業や火山の研究にいそしむうち、ネリにも再会でき、穏やかな日々が続くかと思われたが、またおそろしい寒波が国を覆う。火山を人工的に噴火させれば暖かくなるのだが、その任務に行けば最後のひとりは助からない。ブドリは自ら任務に志願し、たくさんの人々を救ったのだった。

「ネネム」(前頁参照)とほぼ同じエピソードを共有しながら、テーマはまるで違う。全体のさいわいのためなら命さえを投げ出す、というのは、賢治の基底にある重要な思想のひとつだ。増上慢の果てに転落したネネムが、「どうかこの次には、まことのみんなの幸いのために私のからだをおつかいください」(銀河鉄道の夜より蠍の台詞)と呟いたとか想像してしまう。

それにしても、妹思いで農業と化学と地質学に興味があるブドリは、どうしたって賢治本人と重なって見える。このイラストは昔描いてほうっておいた下絵を大幅に改めたものだが、あれにペンを入れられなかった理由は一目で思い出した。

そこには他ならぬ宮澤賢治が、帽子をかぶりあのメモ帳を持って微笑っていたのである。

制作日
2001-08-09
画材
Gペン、Photoshop6.0

book data

作者 / アーティスト
宮澤賢治
題名 / 収録物
「宮澤賢治全集 8」 ちくま文庫 (amazon.co.jpで ISBN:4480020098を見る

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