ぼくらはこの世界を生きていく。

森の防人、ヒナタくん(画像)

ヒナタは森が好きだ。ちいさな生き物たちはヒナタを恐れない。大きな生き物たちはヒナタを気にしない。捕虫網と小さな瓶をたくさん持って、ひそかに森で遊ぶのは、彼だけの秘密の時間。

森は恐ろしいところなのだと、村のほとんどの人がそう言う。森には過去の戦争の遺物だという奇妙で危険な生き物があふれている。彼らが最も恐れているのは“憑かれビト”だ。人が突然身も心も異形のものに変じるそのおそろしい災厄は――伝染する。

森とともに生きることは、憑かれビトとともに生きることだ。森の危険と折り合いその恵みを得るために、森のほとりの村には男女一組の“防人”が置かれている。その起源は、中央官庁が生化学と異態生物学の研究者を配置した前線基地だった。中央からの物資が途絶え通信もままならないなかで、研究者たちは、手近にあるものだけで森の脅威から身を守らねばならなかった。即ち、森から調達した原料と我が身を用いて生体実験を繰り返し、ついには生化学的武装をまとった肉体を得たのだ。そうすることでしか生きていけない過酷な世界だった。また、技術に頼らず人そのものが環境にあわせて変化していくことこそ、ヒトという種が地球と共存していくために、人類最後の知の砦が掲げた最大の、そして極秘の最終目標だったから。

防人の命は短く、子孫は少ない。防人の血筋が不足してしまった村では、多少とも職務に見合う資質を持つ者を選ぼうとするが、うまくいかないことが多い。子孫代々がその危険な職務に就くことを期待されるのだから当然だ。親族の強硬な妨害ゆえに才能のある者が志願しても選ばれず、身寄りのない流れ者や孤児ばかりが選ばれることも増えていた。そしてまたこの村でも、行方不明になった防人の後継者として、防人の娘の秋津とともに、孤児のヒナタを選び出した。適性試験の結果というよりも、明らかに孤児であるゆえに重責を押し付けられて、けれどヒナタは平気だった。森で奇妙ないきものたちを訪ね歩くとなぜか落ち着くし、これからは誰にはばかることもなく森に入れる。秋津もちょっぴり森の匂いがするから好き。ただそれだけのこと。

何ひとつ深く考えないこの少年が、実は防人としての資質を持っていたのは、村にとっては僥倖だった。ほとんど生化学的処理をしなくても、森の毒と微生物に耐えられる体質だったのだ。彼を拾って育てた村長が、中央官庁の研究室の出身であることから、何かを感じる者もあったが、黙っていれば村の日常が守られるのならば何の不満もなかった。

いっぽう秋津は、もう15歳だというのにほんの子どものように無邪気なヒナタが、あたりまえのように森で遊び憑かれビトと語らうさまに、防人に新しい世代が誕生したことを予感する。森は禁忌であり聖域であり、憑かれビトは敬して遠ざけるべきものだと、先祖代々の防人の血は彼女に教えていたのに。秋津はヒナタに誘われるままに森に分け入り、その奥の禁足地で驚くべき集落を見る。そこでは、顔をカラスの面に隠した半人半鳥の女性を長に戴いて、たくさんの憑かれビトたちが静かに暮らしていたのだ。

そしてこの村では“憑かれビト”が殺されなくなった。感染者が出なくなったわけではないが、ヒナタが語りかけると、“憑かれビト”はじっと耳を傾け一礼さえして森の暮らしに入ってゆく。そのうち村人がひとりふたりと気付き始めた。彼らはヒトだ、と。病に憑かれて取り乱しはしても、自分と同じヒトなのだと。かつて憑かれビトとなって森に追いやられた肉親に一言謝りたいと、自ら森に入る人も現われはじめた。

この村が選んだ森との共存の道は、やがて中央官庁にも知られる事になる。そして15年前に起こった研究室の事故と人造生命「マガタ」の盗難事件が再び浮上する。雌性体しか作られなかったはずの「マガタ」とヒナタは関係あるのか? 村長の犯した罪とは? 半人半鳥の女性は何者か? なんだかバレバレだけどもこんなおはなしをいつか書くかもしれないのでよろしくです。

制作日
2002-04-30
画材
Gペン、Photoshop6.0

Other Version

  1. pbbs/20020303hinata.jpgせんたくだいすき / 森の中では満足のいくまで洗濯できる機会はあまりないためか、久しぶりに帰宅するとすごい勢いで洗濯しまくるヒナタくんなのだった(2002-03-03)

character data

名前
日向 / Hinata
シリーズ
Bloody Hounds-next 「防人の森」
参考
妻というか保護者というか、アキヅ姐さん
幼馴染というか魂の姉弟というか、ハルちゃん

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